先進医療と健康保険

健康保険制度を考える(その2)

世界に冠たる日本の健康保険制度が危機に瀕しています。
混合診療の解禁の是非、国民皆保険制度の是非についてアメリカの実状などを踏まえてこの場をお借りして意見を述べてみたいと思います。

国民皆保険は守ってほしい

アメリカでは日本のような国民皆保険ではなく、健康保険は低所得者と高齢者しかありません。
健康保険は民間の保険会社が肩代わりしています。

大企業の従業員であれば、企業が一括して保険に入り保険料の大部分を企業が負担しています。

日本では大企業の会社員が加入する健康保険組合がありますが、2011年度にはその9割が赤字なる見込みだそうです。
赤字になる理由は拠出金が多額だからです。保険料のうち拠出金の占める割合が45%、健保組合の約3割は保険料の半分以上が拠出金となっています。
(日本経済新聞 2011年4月21日付)

日本の国民皆保険が崩壊すると、保険会社にとって組合健保はおいしい市場です。
現在の保険料の30%引きで保険を提案してもまだ15%の利益が得られるのですから。

健康保険を一度市場に委ねてしまうと、二度と元に戻すことはできないでしょう。
組合健保の社員からすれば、民間の医療保険の方が得だし、保険会社もこのおいしい市場を手放すわけがありません。

アメリカが国民皆保険に何度挑戦しても達成できないのは仕方のないことです。

アメリカは世界最高水準の医療技術を持っています。
しかしその医療技術を全員が受けられるわけではないことを知っておくべきでしょう。

世界の平均寿命

世界の平均寿命を見てみましょう。
世界最高水準の医療技術を有するアメリカの平均寿命は世界で39位です。皆さんはこの結果をどうご覧になるでしょうか?


平均寿命(男女)   2005〜2010年
順位 国名 寿命 順位 国名 寿命
1 日本 82.73歳 26 グアドループ島 79.39歳
2 スイス 81.81歳 26 ルクセンブルク 79.39歳
3 香港 81.61歳 28 フィンランド 79.34歳
4 オーストラリア 81.44歳 29 キプロス 78.94歳
5 イタリア 81.37歳 29 バージン諸島(米領) 78.94歳
6 アイスランド 81.28歳 31 コスタリカ 78.87歳
7 フランス 80.95歳 32 マルタ 78.80歳
8 スウェーデン 80.88歳 33 プエルトリコ 78.70歳
9 イスラエル 80.69歳 34 チリ 78.65歳
10 シンガポール 80.60歳 35 スロベニア 78.59歳
11 カナダ 80.54歳 35 ポルトガル 78.59歳
12 スペイン 80.48歳 37 キューバ 78.50歳
13 ノルウェー 80.45歳 38 デンマーク 78.25歳
14 オーストリア 80.24歳 39 アメリカ合衆国 77.97歳
15 オランダ 80.20歳 40 カタール 77.88歳
16 ニュージーランド 80.13歳 41 台湾 77.60歳
17 マルチニーク島 80.07歳 42 ブルネイ 77.51歳
18 マカオ 80.03歳 43 レユニオン 77.26歳
19 韓国 80.00歳 44 マヨット 77.14歳
20 ドイツ 79.85歳 45 チェコ 77.01歳
21 ベルギー 79.77歳 46 アルバニア 76.38歳
22 アイルランド 79.68歳 47 ウルグアイ 76.36歳
23 イギリス 79.58歳 48 バルバドス 76.25歳
24 ギリシャ 79.52歳 49 メキシコ 76.19歳
25 チャネル諸島 79.51歳 50 アンティル(蘭領) 76.14歳

アメリカでは毎年2万2000人前後が治療可能な病気で命を落とします。原因は医療保険に未加入で、医師にかかる経済的余裕がないからだそうです。

この悲劇の犠牲者の多くは、メディケイド(低所得者医療保険制度)の対象になるほど貧しくはないが、必要な薬や医療を自力で賄えるほど豊かではない慢性疾患の患者です。先進国のなかで、こんな事態が起きているのはアメリカだけです。同様に、医療費の負担が原因の自己破産が続発する先進国もアメリカ以外にはありません。

興味のある方は是非、映画「シッコ」をご覧下さい。

混合診療解禁の賛否については次回以降に・・・。

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